日本歯科保存学雑誌
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原著
根管洗浄剤クロラミンTの機能の解析
高橋 知多香松井 智和田 陽子小峯 千明三浦 浩高瀬 俊彦宇都宮 忠彦辻本 恭久松島 潔
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2010 年 53 巻 2 号 p. 174-181

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抄録

本研究の目的は,クロラミンTの根管洗浄剤としての機能を明らかにすることである.クロラミンTおよびH2O2から発生したフリーラジカルが,ラット腹直筋におけるタンパク質溶解に及ぼす影響や,ヒト歯根膜培養細胞を用いた細胞毒性試験について,検討を行った.ラット腹直筋の湿重量変化において,クロラミンTおよびH2O2を1時間作用させたところ,5.0,10.0%のクロラミンTおよび3.0%H2O2において,湿重量の減少が認められた.しかしながら,0.5,1.0%クロラミンTおよび1.0%H_2O_2を作用させても,湿重量変化は認められなかった.pH値測定において,クロラミンTのpH値は,6.22(0%),6.85(0.5%),7.83(1.0%),9.33(5.0%),9.97(10.0%)を示した.ラット腹直筋をクロラミンTに作用させたとき,pH値は,6.30(0%),7.07(0.5%),7.45(1.0%),7.52(5.0%),7.51(10.0%)に変化した.またH2O2では,6.22(0%),5.20(1.0%),4.65(3.0%)を示した.ラット腹直筋にH2O2を作用させることで,6.54(0%),6.84(1.0%),6.72(3.0%)に変化した.不対電子の検出を行うelectron spin resonance(ESR)法を用いた,フリーラジカルの検出において,クロラミンTでは,0.5%>1.0%>5.0%>10.0%>0%の順で,HClOやほかの酸化還元物質と反応して捕捉されるDMPO-Xの増加が認められた.一方,H2O2では,濃度依存的にOH・の増加が認められた.ラット腹直筋をクロラミンTに作用させたとき,タンパク質構造が破壊され,メチル基由来のカーボンセンターラジカル(C・)が認められたが,H2O2に作用させたとき,ESRシグナルの変化は認められなかった.ヘマトキシリン・エオジン染色において,ラット腹直筋は,クロラミンTおよびH2O2の濃度依存的に筋線維の萎縮,結合組織の融解および横紋構造の消失が認められた.ヒト歯根膜培養細胞を用いた24時間後の細胞毒性試験において,細胞生存率はクロラミンTでは,100%(0%),38.5%(0.5%),33.6%(1.0%),33.6%(5.0%),23.0%(10.0%)であったのに対し,H2O2では,100%(0%),14.9%(1.0%),14.7%(3.0%)であった.これらの結果から,クロラミンTは,H2O2と比較し,組織傷害性および細胞毒性が低い根管洗浄剤であり,高濃度ではタンパク質溶解を促進することが示唆された.

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© 2010 特定非営利活動法人日本歯科保存学会
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