日本歯科保存学雑誌
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原著
水硬性仮封材の硬化に及ぼす消毒薬の影響について
東 春生渡辺 聡和達 礼子海老原 新小倉 陽子勝海 一郎須田 英明
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2010 年 53 巻 3 号 p. 304-308

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抄録

根管治療時の仮封材として水硬性セメントを使用する際,乾燥綿球に代わり消毒薬を含有した綿球を髄室内に置くことは,歯髄腔内の無菌化に有用であると予想される.しかし,消毒薬により水硬性セメントの硬化が阻害される可能性がある.硬度が低下したセメントは摩耗しやすく,漏洩を生じ髄室が汚染される懸念がある.本研究の目的は,消毒薬が水硬性仮封材の硬化に及ぼす影響を検討することである.髄室を模したポリエチレンテレフタラート製チューブ100本のうち,50本に水硬性仮封材(Caviton®,ジーシー)を填塞し,残りの50本には各10本ずつ以下の被験薬剤を含ませた綿球を封入した.A群:6%次亜塩素酸ナトリウム水溶液(次亜塩6%「ヨシダ」,吉田製薬),B群:83%エタノールおよび3.7%イソプロパノール(メディアルコットME-S,白十字),C群:水酸化カルシウム材(カルシペックス®II,日本歯科薬品工業),D群:蒸留水,E群:なし(乾燥綿球のみ,コントロール群).なお,C群では綿球を使用しなかった.これらのチューブは接合し,Caviton®の上面以外をユーティリティワックスにて固定,封鎖した.37℃の水中で3日間保管後,Caviton®の表面を耐水研磨紙にて#2,000まで研磨し,小型卓上試験機(EZ-TEST,島津製作所)にて測定針をCaviton®の被験薬剤側に刺入し,20Nに達するまでの刺入距離を測定した.統計学的解析は,一元配置分散分析およびTukey-Kramer testを用い,有意水準5%で行った.その結果,D群と比較しC群およびE群では被験薬剤に接するCaviton®への刺入距離は有意に長かった.一方,A群およびB群では,D群との統計学的な有意差は認められなかった.以上の結果から,Caviton®を根管治療時の仮封材として用いる場合,髄室に次亜塩素酸ナトリウム水溶液,エタノール,あるいは蒸留水を含む綿球を置くことにより,乾燥綿球と比較して深層のCaviton®の硬化が促進されることが示された.

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© 2010 特定非営利活動法人日本歯科保存学会
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