2010 年 53 巻 6 号 p. 592-600
デンタルエックス線写真は,臨床において根管形態を知るうえで最も簡便かつ有用な方法である.しかし,撮影方向が唇(頬)舌方向に限定されるため,完全な根管形態の把握は難しいと考えられる.近年,マイクロフォーカスエックス線CTが開発され,根管形態をより正確に知ることが可能となってきた.そこで,これまで使われてきたデンタルエックス線写真では根管形態についてどの程度の情報を得ることができているのかを評価するため,デンタルエックス線写真の読影から得られた結果と,同一歯から得られたマイクロフォーカスエックス線CT像を形態学的に分析し比較した.ヒト下顎骨7体分左右合計14本の下顎第一大臼歯を試料とした.下顎骨に植立された状態の歯を,正放線投影法と偏心投影法によりデンタルエックス線撮影し,経験を積んだ歯内療法専門医が,根管数,分岐根管,根尖分岐,歯髄結石,網状根管について分析した.同じ試料を抜去し,マイクロフォーカスエックス線CTを用いて根管の3D-CT画像を得た.CT画像から得られた結果を正としてデンタルエックス線写真から得られた結果との一致率を調べた.(1)根管数は,近心根で87.5%,遠心根で75.0%の一致率が得られた.根尖分岐は3D-CT画像では明白に確認できたが,デンタルエックス線写真では不正確であった.(2)分岐根管の有無は,正放線投影法で近心根25%,遠心根75%の一致率を得られたが,偏心投影法を加味すると遠心根では42.9%に一致率が低下した.(3)歯髄結石の有無は,正放線投影法で近心根4.5%,遠心根10.7%の一致率を得られたが,偏心投影法を加味すると像の重なりが増えたため一致率はやや低下した.(4)根管形態の把握に際して,偏心投影を加味すると正放線投影単独よりも多くの情報が得られるが,各検討項目について,特に歯髄結石がみられる遠心根で一致率が低下した.3D-CT画像と比較した結果,デンタルエックス線写真は根管数と分岐根管についてはかなり正確な情報が得られることが示唆された.しかし,根尖分岐,歯髄結石,網状根管など複雑な根管形態の詳細を確認することは困難であることが示唆された.