日本歯科保存学雑誌
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原著
超音波照射のヒト歯肉上皮細胞に対する影響について
臼井 通彦滝口 尚史 春Enkhzaya GURUUDIVAA宮澤 康菅野 真莉加野瀬 冬樹斎藤 彰大菊池 真理子冨永 和宏西原 達次根岸 洋一山本 松男
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2011 年 54 巻 6 号 p. 424-431

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抄録

歯科医療において,超音波は歯石除去,プラーク除去,ルートプレーニングなどに応用されてきた.臨床の場において,歯周組織に存在するプラーク,歯石を除去するのに欠くことのできない存在である.歯周ポケット局所においては,超音波照射のキャビテーション効果によりプラークが除去されることが報告されているが,歯周組織に与える影響について詳細に検討した報告は少ない.そこで,本研究では,バイオフィルムの除去可能な超音波照射条件が歯肉上皮細胞に与える影響について検討した.24 wellプレートにStreptococcus mutans(GS-5株)のバイオフィルムを形成させ,超音波照射を行った.超音波発生装置はSonitron 2000 (Nepa Gene)を使用し,バイオフィルム除去に適した条件(発振子・超音波照射時間・Duty比)を検討した.また,ヒト歯肉上皮細胞株Ca9-22細胞を用いて,超音波照射後の細胞増殖,死細胞数,細胞障害性,およびIL-1β産生への影響を検討した.種々の超音波照射条件で刺激し,24時間後にサンプルを回収した.細胞増殖はWST assay,死細胞数はトリパンブルー染色,細胞障害性はLDH値,IL-1β産生量はELISA法にて評価した.バイオフィルムの除去効果は,1MHzの発振子を用いた場合,超音波照射時問3分,Duty比60%の条件で照射すると,最も効率が高かった.一方,3MHzの発振子を用いた場合,超音波照射時間3分,Duty比40%の条件で使用するとバイオフィルム除去率は高い値を示した.次に,歯肉上皮細胞に対する超音波照射の細胞障害性を評価するために,培養上清中のLDH値を測定した.3MHzの発振子を用いると,超音波照射時間にかかわらず,Duty比40〜90%でLDH値は上昇した.1MHzの発振子でも,超音波照射時間にかかわらず,Duty比50〜90%で高い細胞障害性を示した.超音波照射の細胞増殖への影響を検討するために,WST assayを行った.1MHz, 3MHz双方の発振子においても,超音波照射時間3分の条件で使用すると,Duty比80〜90%の条件で細胞増殖は有意に抑制された.さらに,バイオフィルム除去効率の高かった発振子1MHz,超音波照射時間1分間,Duty比40〜60%と超音波照射時間3分間,Duty比50〜90%の条件に着目し,トリパンブルー染色による死細胞数とIL-1β産生量を測定した.超音波照射3分間で,死細胞数・IL-1β産生量は有意に上昇した.以上の結果より,1MHz,超音波照射時間1分,Duty比40〜60%の条件がプラーク除去効果に優れ,歯肉上皮細胞に対する障害性が低いことが示唆された.今回の研究でバイオフィルムを除去するのに適した種々の条件のなかで,歯肉上皮細胞に与える影響が比較的少ない条件を見つけることができた.今後,細胞安全性のみならず,細胞機能においてもより広範な解析を要し,また異なる細胞種においても詳細な検討が必要である.

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© 2011 特定非営利活動法人日本歯科保存学会
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