抄録
Walking Bleach前のリン酸処理が,コンポジットレジンの接着性に与える影響について検討を行った.被験歯としてウシ下顎前歯を使用した.歯頸部で分割し,髄室開拡後歯髄を除去した.切断面をグラスアイオノマーセメントで封鎖し,髄腔側の表層の象牙質を1層削除して処理面を作製した.この面を濃度の異なる3種類のリン酸水溶液(10, 20, 40%)で10秒間処理し漂白試料体とした.Walking Bleachの操作として,35%過酸化水素水と過ホウ酸ナトリウムを混和して漂白試料体の髄腔内に填入した後,水硬性仮封材で仮封した.各試料を37℃水中で5日間保管後,仮封材および漂白剤を除去し,水洗後,再度新しい漂白剤を填入し保管するという操作を3回繰り返し,計15日間漂白剤を填入した状態にした.15日経過後,髄腔内に綿球のみを挿入して仮封し,37℃水中でさらに5日間保管してWalking Bleachを終了した.その後,髄腔側象牙質へコンポジットレジンを接着させた.対照群として,リン酸処理後Walking Bleachを行わない試料の髄腔側象牙質にもコンポジットレジンを接着させた.接着処理の完了した試料体を37℃水中に24時間保管後,接着面積が1.0×1.0mmとなるダンベル型試料を作製し,小型卓上試験機を用いて微小引張接着強さを測定し,統計処理を行った(n=8).破断面は走査電子顕微鏡で観察した.髄腔側象牙質に対するコンポジットレジンの微小引張接着強さは,リン酸処理の有無,処理濃度,あるいはWalking Bleachの有無いずれの条件においても有意差は認められなかった.しかしWalking Bleachを行った場合には,処理濃度に関係なくすべての条件で多くの残留脱灰象牙質が認められた.以上より,リン酸処理後にWalking Bleachを行うことは,コンポジットレジンの接着性に悪影響を与えると考えられるため,コンポジットレジン修復の可否や歯面処理法などを慎重に判断する必要があることが示唆された.