抄録
フッ化物含有材料から溶出するフッ化物の量は経時的に減少するため,材料の長期的なう蝕抑制効果にはいまだ疑問の余地がある.本研究の目的は,自動pHサイクル装置を用いてフッ化物含有材料の長期的う蝕抑制効果について評価することである.フッ化物含有材料として,2種のグラスアイオノマーセメント(Fuji IXGP Extra (EX), Fuji IXGP Fast Capsule (FF)),フッ化物含有コンポジットレジン(Unifil-flow)とフッ化物非含有ボンディング材(G-bond)の組み合わせ(UG),フッ化物非含有コンポジットレジン(Clearfil AP-X)とフッ化物含有ボンディング材(Clearfil Mega Bond FA)の組み合わせ(AF)を使用し,対照としてフッ化物非含有コンポジットレジン(Solare)とボンディング材(Clearfil Mega Bond)の組み合わせ(SM)を用いた.各材料をヒト抜去小臼歯頬側面に形成された窩洞へ充填後,試料を24時間(短期群)または1.5年(長期群)保存した.保存後,窩洞を含む厚さ約150μmの薄切片を作製し,脱灰溶液(pH4.5)と再石灰化溶液(pH7.0)を用い,1日6回行うpHサイクルに連続5週間供した.実験開始前,1, 3, 5週後にTransverse Micro Radiography (TMR)を撮影し,算出したIntegrated Mineral Loss (IML)によりう蝕抑制効果を分析した.その結果,短期群では,フッ化物含有材料のうちEX, FF, UGはSMよりも有意に少ないIMLを示し,フッ化物による再石灰化によるう蝕抑制効果が認められ,その効果はEX>FF>UGの順に大きいものであった.一方,AFでは有意差を示さなかった.長期群では,フッ化物含有材料問でIMLの有意差を認めず,短期群で認められたう蝕抑制効果は示されなかった.また,短期群,長期群ともに,窩壁でのフッ化物取り込みによるう蝕抑制効果(耐酸性)は認められなかった.