日本歯科保存学雑誌
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原著
ヒト歯髄創傷治癒過程における細胞外基質の局在変化 : Fibrillin-1基質の動的リモデリングに関する検索
吉羽 永子吉羽 邦彦大倉 直人重谷 佳見武井 絵梨花細矢 明宏中村 浩彰興地 隆史
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2013 年 56 巻 3 号 p. 161-168

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抄録

目的:細胞外基質fibrillin-1は,弾性線維の構成タンパクであると同時に,その分解によりtransforming growthfactor-β (TGF-β)を遊離させることが知られている.また,著者らはfibrillin-1がヒト歯髄直接覆髄後の創傷治癒過程で発現を消失させることを見いだしている.そこで本研究では,TGF-β制御活性を有する組胞外基質decorinとfibronectin,および創傷治癒と組織線維化に関与するtenascin-Cが,ヒト歯髄直接覆髄後の創傷治癒過程でfibrillin-1様の局在変化を示すか否かを検索した.さらに,スライス培養したヒト歯髄を用いて,fibrillin-1の発現消失へのmatrix metalloproteinase (MMP)の関与の実態を検索した.材料と方法:矯正治療により抜歯予定のヒト健全歯をmineral trioxide aggregate (MTA)で直接覆髄した後,2週および6週後に抜歯し,fibrillin-1, fibronectin, decorinおよびtenascin-Cに対する免疫組織化学的染色を行った.また,健全歯髄を組織培養し,fibrillin-1mRNA発現を定量RT-PCRで測定するとともに,MMP阻害剤であるNNGHを添加培養し,fibrillin-1タンパクの局在変化を免疫染色により解析した.結果:直接覆髄後2週および6週において,fibrillin-1に対する免疫陽性反応は,覆髄部直下の歯髄組織で局所的に消失していた.一方,fibronectin, decorinおよびtenascin-Cは同部で一様に陽性反応を示しており,明らかな局在変化は認められなかった.一方,培養歯髄組織ではfibrillin-1の染色性が減弱し,mRNAの発現も有意に低下したが,MMP-3mRNA発現は有意に亢進した.NNGHを添加培養するとfibrillin-1の染色性が向上した.結論:検索対象とした4種のタンパクのなかでfibrillin-1のみ直接覆髄後の創傷治癒過程で局在変化を示した.Fibrillin-1免疫反応性の消失には,MMPsによるタンパクの分解に加えて遺伝子発現の下方制御も関与するものと考えられた.

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© 2013 特定非営利活動法人日本歯科保存学会
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