日本歯科保存学雑誌
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総説
エナメル質臨界pHについての理論的考察
—なぜ, pH5.3付近なのか—
中嶋 省志SADR Alireza田上 順次
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キーワード: 臨界pH, エナメル質, 脱灰
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2014 年 57 巻 2 号 p. 111-120

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抄録

 過去, エナメル質の溶解現象を説明するうえで臨界pHという考え方が強調され, そのためpHにのみに多くの関心が払われてきた. しかし, この溶解現象がpHにだけ依存するものではないことは, 以前から知られている.
 本稿ではまず臨界pHについて, 過去の文献を引用してその歴史を簡単に振り返る. そのなかで, 臨界pHはエナメル質に固有の特性ではなく, 酸性液に含まれるCa2+とリン酸イオンの濃度に依存して決定され, 「一定の値をとらないこと」を述べる. この考え方は, すでに1950年代にみられる. この臨界pHが今日話題となっている酸蝕とも関連することから, そのことについても言及する.
 一方, 臨界pHを決定する要因には, 前述のCa2+とリン酸イオンの濃度以外にも, エナメル質の熱力学的溶解度 (酸溶解性の指標) がある. この指標の程度はエナメル質によってかなり異なり, この違いが臨界pHに大きな影響を与えることを解説する.
 具体的には, 飽和度という概念を基に臨界pHに及ぼすCa2+とリン酸イオンの濃度の影響を計算し, 臨界pHの値を推定した. すなわち, プラーク液にて検出される平均的なCa2+とリン酸イオン濃度を用い, そこで酸が産生されpHが低下したとして, 臨界pHを計算した. その結果, この場合の臨界pHは5.15であった. 同様にエナメル質の酸溶解性の違いから, 最も溶けにくいエナメル質の場合の臨界pHは5.02, 最も溶けやすい場合は5.81となり, 大きな違いが認められた.

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© 2014 特定非営利活動法人日本歯科保存学会
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