2014 年 57 巻 4 号 p. 301-312
目的: 象牙細管内容物が象牙細管の封鎖性に及ぼす影響は不明であり, 詳細な検討が必要である. そこで, 象牙質知覚過敏抑制剤を抜去直後の細管内容物をそのままにした象牙細管開口部に塗布し, その封鎖性を形態学的に検討した.
材料と方法: 4種類の象牙質知覚過敏抑制剤 (MS Coat F, GLUMA Desensitizer, SHIELD FORCE PLUS, FL-BOND Ⅱ) を用いた. 抜去歯は朝日大学附属病院にて抜去された第三大臼歯を用いた. ①接触角と表面張力の測定: #1,600耐水研磨紙で研磨した平坦な象牙質を作製し, 37℃, 24時間, 真空中で乾燥したものと蒸留水中に浸漬したものに知覚過敏抑制剤を1μl滴下し, 経時的に60秒後まで接触角を測定した. 表面張力は懸滴法で, 知覚過敏抑制剤1μlの液滴が垂れ下がった状態から60秒後まで経時的に測定した. ②象牙細管の走査電子顕微鏡 (SEM) 観察と元素分析: 抜去直後の第三大臼歯の歯頸部を割断し, 象牙細管開口部を作製した. 抜去後30分以内に知覚過敏抑制剤を塗布した試料 (抜去直後試料) および人工唾液に4週間浸漬後の試料 (4週後試料) をグルタールアルデヒドで固定し, 象牙細管の封鎖性を形態学的に観察した. また, エネルギー分散型X線アナライザーでCa/Pモル比を求めた. 得られた値はすべて有意差検定 (ANOVA, Fisher’s PLSD test, p<0.05) を行った.
結果: ①接触角と表面張力: 各知覚過敏抑制剤により接触角の値は有意に異なっていた. また, 真空中乾燥の象牙質と蒸留水中浸漬の象牙質との間に有意差を認め, 蒸留水浸漬のものが大きい接触角の値を示した. また, GLUMA Desensitizer, SHIELD FORCE PLUSは小さい値であった. 表面張力の値も各知覚過敏抑制剤によって有意に異なっていた. SHIELD FORCE PLUS, FL-BOND Ⅱは小さかった. ②象牙細管のSEM所見とCa/Pモル比: GLUMA Desensitizerは抜去直後試料での細管が開口されたままで, 細管内に有機質のようなものが観察されたが, 4週後試料では観察されなかった. MS Coat Fは抜去直後試料で細管内に微粒子や結晶が観察されたが, 4週後試料では観察されなかった. SHIELD FORCE PLUS, FL-BOND Ⅱは抜去直後, 4週後試料とも細管内に約20μm程度の長さのレジンタグ様のものが観察され, 細管は封鎖されていた. しかし, FL-BOND Ⅱは含有するフィラーが細管より大きいため, レジンの細管侵入を阻害していたものがあった. 4週後試料の細管開口付近のCa/P比から判断して, すべての知覚過敏抑制剤とも顕著なCaの沈着は起きていなかった.
結論: 今回使用した象牙質知覚過敏抑制剤は湿潤象牙質にはぬれ性が悪く, 生活歯の象牙細管への侵入は歯髄内圧を考えるとかなり難しいと考えられた. しかし, SHIELD FORCE PLUSは抜去直後, 4週後試料とも細管内に約20μm程度の長さのレジンタグを形成し, 象牙細管は封鎖されていた.