抄録
目的 : シングルステップアドヒーシブ中の溶媒を効果的に除去するとともにその重合硬化性を向上させることを目的として, ウォームエアブローが考案された. そこで, ウォームエアブローがHEMA未含有シングルステップアドヒーシブのエナメル質接着性に及ぼす影響について界面科学的見地から検討するとともに, 剪断接着強さならびにSEM観察を行った.
材料と方法 : 供試したシングルステップアドヒーシブは, BeautiBond Multi (松風) である. 試片の製作に際して, ウシ下顎前歯歯冠部唇側面をSiCペーパーの#600まで研削したものをエナメル質被着面とした. 被着歯面にアドヒーシブを塗布した後, ウォームエアブローを行った試片 (Warm群) およびエアシリンジを用いてエアブローを行った試片 (Control群) の2条件とした. 表面自由エネルギーの測定には, 表面自由エネルギーが既知の液体として, 1-ブロモナフタレン, エチレングリコールおよび蒸留水を使用した. 接触角の測定は, 全自動接触角計を用いてセシルドロップ法でそれぞれの液滴を1μl滴下し, θ/2法で行った. 接着試験は, 通法に従って試片を製作し, 万能試験機を用いて剪断接着強さを測定した.
成績 : 表面自由エネルギーは, Control群とWarm群で差が認められなかった. 表面自由エネルギーを構成する各成分で比較すると, van der Waals力が支配的でありウォームエアブローによる影響は認められなかった. また, 酸-塩基成分を構成する各成分で比較すると, Lewis酸性成分は両群間で差が認められず, Lewis塩基性成分は, Control群と比較してWarm群で有意に低い値を示した. 接着試験の結果からは, ウォームエアブロー時間の違いによる影響は認められなかった. また, 接着試験後の破壊形式は, いずれの製品においても界面破壊が大勢を占め, ウォームエアブロー時間の違いによる影響は認められなかった.
結論 : 本研究において, HEMA未含有シングルステップアドヒーシブを用いて, ウォームエアブローが表面自由エネルギーおよびエナメル質接着性に及ぼす影響について検討したところ, その影響は認められなかった.