日本歯科保存学雑誌
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原著
フッ化ナトリウムの配合が接着性レジンセメントの曲げ強さと吸水および溶解に及ぼす影響
大原 直子澁谷 和彦田中 久美子星加 知宏遠藤 梓西村 麻衣子竹内 晶子山路 公造西谷 佳浩𠮷山 昌宏
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2015 年 58 巻 1 号 p. 10-16

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抄録

 目的 : 接着性レジンセメントにフッ化ナトリウムを配合することにより, セメントから溶出されるフッ素による歯質強化や修復歯の二次う蝕抑制機能が期待できる. しかしながら, フッ化物の配合およびその溶出はセメントの物性を低下させてしまう懸念がある. 本研究では, フッ化ナトリウムの配合が接着性レジンセメントの曲げ強さや水中浸漬による吸水および溶解に及ぼす影響について検討することを目的とした.
 材料と方法 : フッ化ナトリウムを0~20wt%の割合で配合したセルフアドヒーシブレジンセメントを試作し, 1日目から84日目までのフッ素溶出量を経時的に測定した. 次に, 初期硬化 (37°C水中24時間保管) 後およびサーマルサイクル負荷 (5°C-55°C, 10,000回) 後の3点曲げ強さを測定した. さらに, 30日間水中浸漬後の吸水および溶解量を測定し, フッ化ナトリウム配合率との関連を分析した.
 結果 : フッ素徐放量は, フッ化ナトリウムの配合率の増加とともに増加した. 初期硬化後の5wt%と10wt%フッ化ナトリウム配合セメントの3点曲げ強さは, 配合0wt%のセメントと比較して統計学的に有意な低下を認めなかったが, 15wt%以上の配合で有意に低下した. 15wt%配合セメントの曲げ強さと20wt%の配合セメントの曲げ強さには有意差を認めなかった. サーマルサイクル負荷後の曲げ強さの比較においても同様の結果が得られた. 30日間の吸水量では, 5wt%配合率のセメントは0wt%配合率のセメントとの間に差は認められなかったが, 10wt%と15wt%の配合は0wt%の配合セメントと有意差が生じた. 溶解量は, 0~10wt%のフッ化ナトリウム配合セメント間で有意差を認めなかった.
 結論 : フッ化ナトリウム配合率の増加は, フッ素徐放量を向上させる一方で, 3点曲げ強さの低下と吸水および溶解量を増加させる傾向を示した. 本研究の範囲内で, フッ化ナトリウム配合10wt%の接着性レジンセメントは, 機械的強度を低下させることなくフッ素徐放機能を付加できる可能性が示唆された.

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© 2015 特定非営利活動法人日本歯科保存学会
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