日本歯科保存学雑誌
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原著
リン酸カルシウム系ペーストの歯質ケア材としての有用性
千葉 敏江山本 雄嗣下田 信治桃井 保子
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2015 年 58 巻 3 号 p. 200-211

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抄録

 目的 : 本研究の目的は, リン酸カルシウム系セメントの原理を応用したペースト (以下, APペースト) の含有成分による, 歯質ケア材としての有用性を解析することである. この目的に沿って, 1) APペースト由来の元素の象牙質への移行状態について, 2) 象牙質内および塗布面に析出したアパタイト結晶の同定, 3) 象牙質のアパタイト結晶の成長について解析した.
 材料と方法 : 本研究ではヒト抜去永久歯を用いた. 象牙質へのAPペースト由来の元素の分布と移行状態について, 元素分析を行った. 象牙質に開窓面を作製し, 50mmol/l酢酸で3日間脱灰後, 試験面に1日3回, 2週間連続してAPペーストを塗布した. その後, 試験片をエポキシ樹脂で包埋し, 観察面を鏡面研磨して二次電子および反射電子で観察した. また電子線プローブマイクロアナライザー (EPMA) により, Ca, P, Fの各元素について定量分析を行った. 標準試料としてハイドロキシアパタイト (HAp), 塩基性リン酸カルシウム (リン酸四カルシウム : TTCP), 酸性リン酸カルシウム (リン酸水素カルシウム : DCPA) を用い, 析出結晶の形態観察と, 電子線回折による結晶の同定を透過型電子顕微鏡 (TEM) で行った.
 結果 : 1) EPMAによる元素分析で, Ca, P, Fの象牙質歯質への明らかな移行と蓄積が確認された. 2) 象牙質表面および象牙細管内部に新たな結晶の析出が確認され, 電子線回折により, HApに転化していることが確認された. 3) APペースト由来の無機質により, 脱灰領域の象牙質の石灰化度は, 健常な管周および管間象牙質の無機質量にまで回復していた. 脱灰領域の結晶と塗布後の結晶では, 明らかな結晶成長と再石灰化が確認された.
 結論 : 本研究結果から, APペースト含有成分であるTTCP, DCPAに由来するCaおよびPイオンは, 象牙質に浸透してアパタイト結晶の成長を促進し, 塗布したAPペースト自体も象牙質と同成分のアパタイトとして再結晶化することから, 本ペースト製剤の歯質ケア剤として有用性が示唆された.

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