日本歯科保存学雑誌
Online ISSN : 2188-0808
Print ISSN : 0387-2343
ISSN-L : 0387-2343
原著
光硬化型ケイ酸カルシウム系直接覆髄剤における元素の移動および溶出
掘江 卓堅田 和穂河合 利浩松井 治堅田 尚生冨士谷 盛興千田 彰
著者情報
ジャーナル フリー

2015 年 58 巻 5 号 p. 373-380

詳細
抄録

 目的 : 直接覆髄剤としてのMTAと同等の修復性反応を示した光硬化型ケイ酸カルシウム系覆髄剤 (TCL) の治癒機転を検索することを目的として, MTAおよびTCLにおける材料内外での元素 (P, Ca, SiおよびC) の移動, 溶出, あるいは析出などの挙動について, 電子線マイクロアナライザ (EPMA) あるいは高周波プラズマ発光分光分析装置 (ICP) を用いて詳細に検討した.
 材料と方法 : エポキシ樹脂に円柱形の規格孔を形成し, MTAあるいはTCLを塡塞した. いずれも硬化を確認後, 37°Cのリン酸緩衝生理食塩水 (PBS) 中に1, 3日あるいは7日間浸漬した. その後, これら試料および浸漬していない試料をエポキシ樹脂にて包埋し, 試料中央で切断した. 切断面を鏡面研磨し, カーボン蒸着後, P, Ca, SiおよびCの各元素分布の様相をEPMA分析した. 次に, 内径4.0mm, 高さ2.0mmの円柱形のシリコンモールドに, MTAあるいはTCLを塡塞, 硬化させ, 円柱型の試料を調製した. その後, 試料を20mlの37°C超純水に1, 3日あるいは7日間浸漬し, ICPを用いて各材料からの単位面積当たりのCaおよびSiの溶出量を測定した. 得られた結果はt検定を用いて統計学的処理を施した (α=0.05).
 結果 : MTAでは, Pの材料内部への浸入とともに水も浸透し, それに伴ってCaおよびSiが表面方向へ移動し, さらにCaおよびSiは材料外に持続的に溶出していた. TCLでは, MTAで観察されたような明確な材料内での元素移動は認められなかったが, 材料外へのCaならびにSiの持続的溶出はMTAと同程度に認められた. これは, TCLの表層に存在する高親水性レジンのポリエチレングリコールジメタクリレートを介して水が移動することにより生じたものと考えられた. PBSに浸漬したMTAおよびTCLのいずれの表面上においても, リン酸カルシウム様結晶物の析出を認めた. これらの結果は, いずれの材料からも同程度のCaとSiが溶出されることを示しており, TCLはMTAと同等の良好な直接覆髄効果を示すと推察された.
 結論 : TCLの元素の移動, 溶出および析出などはMTAとほぼ同様であり, そのためTCLはMTAと同等の直接覆髄効果を示すと考えられた.

著者関連情報
© 2015 特定非営利活動法人日本歯科保存学会
前の記事 次の記事
feedback
Top