2018 年 61 巻 4 号 p. 225-234
目的 : 歯周病のコントロールにおいてブラッシングなど機械的清掃は重要な役割を果たしているにもかかわらず, 個人によってブラッシング方法は一定しておらず, 適切に行われていないのが現状である. ブラッシング方法に左右されずに, 一定の効果を示す, バイオフィルムの制御のための新しいアプローチが必要とされる. そこでわれわれは, 歯周病菌のコントロールのための卵黄抗体 (IgY) 含有フィルムの使用により慢性歯周炎患者の口腔内環境の変化について検討した.
材料と方法 : 本学附属病院歯周治療科に通院中の20代~70代までの男女で口腔組織に影響を及ぼす全身疾患を有せず, 1カ月以内に抗菌薬等の薬物投与を受けず, 初診時の口腔内細菌検査でPorphyromonas gingivalis, Tannerella forsythia, Treponema denticola, Prevotella intermedia, Aggregatibacter actinomycetemcomitansのうち, いずれかの歯周病原細菌が唾液中から検出された患者を被験者とした.
研究方法として, 被験者がオボプロン含有フィルムを2週間服用, 2週間の回復期間後, 続けて2週間プラセボフィルムを服用した. 期間中は機械的なブラッシング以外のプラークコントロールを禁止とし, 歯磨きの方法と回数は被験者の日常行っている方法で継続してもらった. 唾液は各フィルム摂取の前後の計4回採取し, 唾液中歯周病原細菌数を測定した. 唾液中の歯周病原細菌は, 特異的プライマーを用いたリアルタイムPCR法による菌数測定にて行った.
結果 : A. actinomycetemcomitansはすべての患者で検出されなかった. 歯周病原細菌数がもともと多かった重度歯周病原細菌保有群では, P. gingivalis, T. forsythia, およびT. denticolaの細菌数はIgY含有シート使用後に大きく減少した. しかし, IgY含有シート使用後のP. intermediaの細菌数は増加した. またもともと歯周病原細菌数が中等度の歯周病原細菌保有群では, P. gingivalis, T. forsythia, およびT. denticolaの細菌数は, IgY含有シート使用後にほぼ変化はなく, P. intermediaの細菌数は増加した. IgY含有フィルムは, もともと歯周病原細菌数が多い状態つまり抗体が少ない状態では効果があるが, 細菌数が少ない状態つまり抗体数が十分に存在する状態では逆に細菌数を増やす可能性がある.
結論 : IgY含有シート使用によってP. intermedia以外の歯周病原細菌の抑制を認めたが, もともと歯周病原細菌数が少ない場合は逆に細菌数を増加させてしまう傾向を示した. つまり, 慢性歯周炎罹患患者にIgY含有シートを使用するときは, 慎重に使用することが示唆される.