日本歯科保存学雑誌
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症例報告
低侵襲の歯周外科治療にEr : YAGレーザーを応用した症例の長期経過
水谷 幸嗣三上 理沙子松浦 孝典和泉 雄一岩田 隆紀青木 章
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2020 年 63 巻 1 号 p. 96-104

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抄録

 緒言 : 歯周外科治療において, 切開と剝離を最小限にする 「侵襲の低い歯周外科手術」 の手技がいくつか確立してきており, 低侵襲による良好な治癒経過が再生療法の結果にも有効な影響を与えることが多くの臨床研究で報告されている. またEr : YAGレーザーを歯周治療に用いる際に根面のデブライドメントや軟組織治療だけでなく, レーザー光の止血効果を活用し, 術部の血餅を安定化させるという新しい技法により臨床成績の向上と, 飛躍的な応用範囲の拡大がなされている. 本稿では, 歯周外科の侵襲をより小さくし, かつ歯周組織再生の効果が促進されることを期待し, 垂直性骨欠損に対してEr : YAGレーザーをmodified minimally invasive surgical technique (M-MIST) に併用した症例を報告する.

 症例 : 患者は57歳女性, 上顎右側臼歯部からの出血が改善しないことを主訴に来院した. 歯周ポケット検査の結果から上顎右側第一小臼歯は動揺度1度を示し, 近心口蓋側に7mmのプロービングポケット深さ (PPD) を認め, 限局型重度慢性歯周炎と診断した. 歯周基本治療後の再評価で, 上顎右側小臼歯近心に頰側5mm, 口蓋側6mmのPPDが残存したため歯周外科手術を実施した. 本症例では, 外科的侵襲を最小限にすることを意図し, M-MISTのデザインで, 歯間乳頭を剝離せずに頰側歯肉のみを剝離した. Er : YAGレーザーにより歯肉切開, 肉芽組織の除去と根面のデブライドメントを注水下で行った. そして搔爬後に, 骨欠損内の出血に対してEr : YAGレーザーを非注水のdefocus照射を行うことで, 主に血液表面を凝固させて, 組織への直接的な損傷を最小限にした止血方法をとることで, 血液を血餅として骨欠損内に安定して貯留させることができた. その後, 弁を復位縫合した.

 成績 : 術後は鎮痛剤1錠を服用したのみで, その後は痛みを感じることなく経過した. 術後11カ月の再評価時にはPPDは頰側口蓋側ともに2mm, CAL 2mmとなり, 4mmのアタッチメントゲインが認められた. デンタルエックス線写真から欠損部において不透過性の亢進が観察された. 現在は, 3カ月ごとのメインテナンスを継続しており, 術後7年の経過において2mmのPPDを維持している.

 結論 : 本症例では, 垂直性骨欠損へのmodified minimally invasive surgical technique (M-MIST) にEr : YAGレーザーを切開, 搔爬, 血餅へのdefocus照射に併用し, 良好な経過を得ることができ, 長期に安定した状態を維持することができている. この複合的な術式は, 侵襲を最小にして歯周組織再生を目指す場合の選択肢になりうることが示唆された.

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