日本歯科保存学雑誌
Online ISSN : 2188-0808
Print ISSN : 0387-2343
ISSN-L : 0387-2343
原著
高グルコース条件下における歯肉線維芽細胞のカルプロテクチン誘導性炎症関連因子の産生におけるスダチチンの抑制効果
西川 泰史成石 浩司木戸 淳一湯本 浩通
著者情報
ジャーナル フリー

2020 年 63 巻 6 号 p. 503-511

詳細
抄録

 目的 : 糖尿病患者の歯周病は重症化する. 本研究では, 糖尿病患者において重症化した歯周病におけるスダチ果皮抽出物スダチチンの治療効果を検討することを目的とし, その第一段階として高グルコース条件下で培養した歯肉線維芽細胞において, カルプロテクチンによって誘導される炎症関連因子の産生におけるスダチチンの抑制効果を調べた.

 方法 : 細胞はヒト歯肉線維芽細胞CRL-2014 (ATCC) を用い, 培養は通常のグルコース濃度 (5.5mmol/l) をNormal Glucose (NG), 高グルコース濃度 (25mmol/l) をHigh Glucose (HG) とした. なお, 浸透圧対照としてNGに19.5mmol/lのマンニトール (MN) を添加して調製した群を実験系に加えた. カルプロテクチンで刺激した後のヒト歯肉線維芽細胞のIL-6, MCP-1, MMP-1およびTIMP-1の産生性はELISAキットを用いて測定・評価し, IκBαおよびp65のリン酸化誘導の有無はウエスタンブロット法によって検討した. なお, カルプロテクチン刺激の60分前にスダチチンを添加して, カルプロテクチンによる炎症関連因子の産生誘導におけるスダチチンの抑制効果を調べた.

 結果 : HG群の歯肉線維芽細胞において, カルプロテクチン誘導性のMMP-1およびMCP-1産生は対照群に比較して有意に亢進したが, HGによるIL-6の産生亢進はみられなかった. 一方, TIMP-1の産生はカルプロテクチン刺激によって変化しなかった. また, HG群の歯肉線維芽細胞をカルプロテクチンで刺激すると, 対照群に比較してIκBαおよびp65のリン酸化が著明に亢進した. なお, スダチチンはカルプロテクチンによるMCP-1, MMP-1の誘導およびIκBαおよびp65のリン酸化を劇的に抑制した.

 結論 : スダチチンは, NG群およびHG群の歯肉線維芽細胞においてカルプロテクチン誘導性MCP-1およびMMP-1産生を抑制する. このことは, スダチチンが慢性歯周炎および糖尿病患者にみられる歯周病の重症化を抑制する可能性を示唆する.

著者関連情報
© 2020 特定非営利活動法人日本歯科保存学会
前の記事 次の記事
feedback
Top