日本歯科保存学雑誌
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原著
ステイン除去および沈着防止に最適な鎖長の無機ポリリン酸による脱灰抑制効果
田中 智久寺島 実華子池谷 侑紀川添 祐美柴 肇一真鍋 厚史
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2021 年 64 巻 2 号 p. 107-115

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抄録

 目的 : ポリリン酸塩 (polyP) は, リン酸塩が鎖状に重合された高分子物質であり, 生体内に存在しさまざまな生理学的機能を有していることがわかっている. 歯科領域では, 歯の表面に結合して着色を落とし沈着を防止することが知られている. 本研究では, polyPの重合度によって歯の表面の着色除去および付着防止の効果が異なるかどうかについて検討を行った. また, 歯の表面に結合したpolyPが酸による脱灰を抑制するかどうかについても検討を行った.

 材料と方法 : 紅茶とコーヒー抽出液で染色されたハイドロキシアパタイト粉末を遠心チューブに入れ, さまざまな鎖長のpolyPまたは精製水を入れて溶液を作製した. 1分間混合し, 1,500×gで2分間の遠心分離によって溶液を分離させ, 上澄みを除去した. さらに, 染色していないハイドロキシアパタイト粉末に同様の方法でpolyPまたは精製水を入れて溶液を作製し, 混合後遠心分離によって溶液を分離させ上澄みを除去した. そして, 紅茶とコーヒー抽出液で染色した. おのおのを精製水で洗浄し, 各懸濁液を96マルチウェルプレートに移した. イメージスキャナーを使用して各ハイドロキシアパタイト粉末の色をスキャンし, 色濃度を計測して着色の除去効果と沈着防止効果を評価した. 次に, 象牙のプレートを耐水研磨紙によって研磨し, 試片を滑沢にした. 重合度9.7のpolyP (polyP9.7) をサリベートに溶解して1%に調整した溶液またはサリベートに10分間浸漬後, 水洗乾燥させた. その後試片を40%リン酸で20分間処理後, 水洗乾燥させた. 乾燥後脱灰部分の断面深さを, 光学顕微鏡により観察した.

 結果 : polyP9.7は, 着色の除去および沈着防止の両方に高い効果を示した. 歯磨剤に一般的に使用される3つのリン酸塩残基が重合したトリポリリン酸塩と重合度60のpolyPでは, polyP9.7前後の分子量のpolyPと比較して着色の除去および沈着防止効果の両方が低いことがわかった. また, polyP9.7で処理された象牙の表面は, リン酸エッチングによる脱灰が抑制された.

 結論 : 本研究の結果, polyP9.7は歯面への着色の除去および沈着防止の両方に高い効果を示し, 歯の表面に結合することで脱灰を抑制することが示唆された.

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