2022 年 65 巻 3 号 p. 198-204
目的:根尖性歯周炎は,感染根管に起因した二次的病変として発症するリンパ球活性の増進,炎症性細胞の遊走や浸潤および破骨細胞の活性化を伴う根尖周囲の炎症性疾患で,疼痛や根尖部歯肉の腫脹など,さまざまな臨床症状を引き起こす.これまでに,根尖性歯周炎の病態を解明することを目的として,サイトカインや成長因子のようなさまざまな炎症性メディエーターの関与について研究が行われてきているが,その詳細は明らかにされていない.そこで本研究では歯根肉芽腫の病態を解明することを目的として,慢性炎症性疾患の病態に関与することが報告されているカルシウム結合タンパクS100A8とS100A9に着目し,両タンパクの歯根肉芽腫と健常歯肉におけるタンパクおよび遺伝子発現の検索を行った.
材料と方法:日本大学歯学部付属歯科病院歯内療法科に来院し,根尖性歯周炎と診断され歯根尖切除法が適応とされた患者から根尖病変組織を採取した.採取した試料はただちに二分割し,一方を10%ホルマリンで固定およびパラフィン切片の作製後,病理組織学的検索を行った.加えて,病理組織学的検索の結果,歯根肉芽腫と診断した試料を用いて,免疫組織化学的検索を行った.他方は,OCTコンパウンドに包埋し,ドライアイス–アセトンで凍結した後,real-time polymerase chain reaction(PCR)法による遺伝子発現の検索を行った.また,健常歯肉組織は埋伏智歯抜歯時に採取し,根尖性歯周炎と同様に検索を行った.なお,被験者に対して試料を本実験に使用することを説明し,文書にて同意を得た後に試料採取を行った(EP18D014).
成績:病理組織学的検索の結果,採取した44例の根尖病変組織のうち,32例は歯根肉芽腫,12例は歯根囊胞であった.次に歯根肉芽腫組織と健常歯肉組織に対して,蛍光標識した抗体を用いて免疫組織化学的検索を行った結果,健常歯肉中ではS100A8とS100A9タンパクの発現を認めなかったが,歯根肉芽腫では両タンパクの発現を認めた.また,real-time PCR法を用いて検索した結果,健常歯肉と比較して歯根肉芽腫では有意に高いS100A8とS100A9遺伝子の発現を認めた.
結論:慢性炎症性疾患である歯根肉芽腫中でS100A8およびS100A9が発現し,S100A8およびS100A9は慢性炎症性疾患においてその病態に関与していることから,口腔内の慢性炎症性疾患である歯根肉芽腫においても病態の調節に関与している可能性が示唆された.