歯科医学
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博士論文内容要旨および論文審査結果要旨
咀嚼時のヒト外側翼突筋 (下頭) の筋電図学的研究
西川 久義
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1992 年 55 巻 4 号 p. g1-g2

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抄録

咀嚼筋である咬筋, 側頭筋の筋電図は, 顔面皮膚上から表面皿電極によって簡単に記録できるので, これまで数多くの詳細な研究が報告されている. しかし, 同じ咀嚼筋でも外側翼突筋や内側翼突筋は深部筋で, しかも解剖学的に複雑な位置にあるので, 表面電極による記録ができず, 筋電図学的な研究は立ち遅れていた. しかし, bipolar fine wire electrodeの開発応用によって, 外側翼突筋下頭については, 下顎の前方運動, 開口運動, 側方運動時に顆頭のprotractorとして活動することが明らかにされ, 同時に下顎のstabilizerとしての役割も注目されてきた. 一方, 咀嚼運動時の本筋の筋活動については, 研究者間で異なった見解が示されている. 著者は, 咀嚼運動時の本筋の筋活動についての見解の相違の原因の一つは, 咀嚼運動時の下顎運動曲線を同時記録していないため, 筋活動電位に対応する下顎位の判定ができないことにあると考えた. そこで本研究では, 咀嚼運動時ならびに咀嚼圧発現時の外側翼突筋下頭の働きを明らかにすることを目的とし, 成人男性8名について, 右側外側翼突筋 (Lpt), 右側咬筋 (Mm), 右側側頭筋前部 (Ta) および右側側頭筋後部 (Tp) の筋活動, ならびにMKGを用いた切歯部での下顎運動を同時記録し, 筋活動と下顎位との時間的関係を詳細に分析した. その結果, 以下のことが明らかになった. 1. 咀嚼1ストローク中のLpt筋活動時間の占める割合は, working sideで69.0%, balancing sideで61.6%であった. 2. Working sideの開口相では, Lpt筋活動は最大開口位まで持続せず, 最小12msecから最大81msec以前に消失した. この筋活動の抑制は咀嚼側への下顎の側方移動に関連すると考えられる. 3. Balancing sideのLptの筋活動は, 最大開口位を越えて閉口相初期まで, 最小4msecから最大62msecの継続があった. この筋活動は閉口筋と協調した閉口相初期の下顎側方移動に関連すると考えられる. 4. Working sideの閉口相終末から咬合相の初期にかけてのLptの筋活動は, 8名中6名に認められた. この筋活動にはMm, Ta, Tpとの協調活動としての下顎のstabilizerとしての役割, および咀嚼終末相での顆頭の前内方への移動にmediotrusionとして関与する役割が考えられる. 5. Working sideの咬合相では, Mmの活動消失後の咬合相後半にLptの強い筋活動が認められた. この活動は前側方咬合圧の発現と関連するものと示唆される. 6. 咀嚼時のLptの筋活動パターンは各被験者で異なり個人差が強かった. 以上から, ヒト外側翼突筋の咀嚼中の筋活動は, 開口時の下顎の下方移動と側方移動, また閉口相初期の側方移動に関連し, 咀嚼運動の形成に大きな役割を果たしていた. また, 咬合相後半の活動から, 水平的咀嚼力の発現にも関連していることが示唆された.

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© 1992 大阪歯科学会
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