歯科医学
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博士論文内容要旨および論文審査結果要旨
茎状突起の画像診断に関する研究
山下 雅資
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2002 年 65 巻 3_4 号 p. A13-A14

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抄録

茎状突起の異常が咽喉頭を中心に頭頸部全体に疼痛や違和感などの多彩な症状を引き起こすことは以前から知られている.茎状突起は頭蓋底の骨から棘状に前内下方にのびる突起で,X線診断において他の骨と重複し,診断に苦慮することが多い.そこで,茎状突起の正常,異常を簡潔に画像診断する方法を模索し,確立するために以下の研究を行った.1991年から2001年までの10年間に大阪歯科大学耳鼻咽喉科を受診し,回転方式パノラマ写真(以下,パノラマ写真)を撮影した症例429例を対象として,パノラマ写真上で茎状突起を観察し,突起長や前方角度を計測した.対象症例は三群に分けて検討した.グループIはコントロール群で,歯原性疾患,副鼻腔疾患などの症例で389例が属し,グループIIは咽喉頭異常感を訴える症例で36例が属し,グループIIIは過長茎状突起症と診断した症例で4例が属した.茎状突起の長さ計測結果は,グループIでは30.08±4.69mm,グループIIでは40.50±5.61mm'であった.グループIIにおける突起長は,t検定においてグループIに比較して危険率1%以下で有意に長かった.グループIIIの突起長は59.52±15.49mmで,t検定においてグループIIに比較して危険率5%以下で有意に長く,グループIに比較して危険率0.1%以下で有意に長い結果であった.男女間で突起長に有意差はなく,左右間にも有意差はなった.各症例で左右に10%以上の差があるものは118例(28.1%),20%以上の差があるものは32例(7.6%)であった.年齢と突起の長さとの間に有意な相関関係はなかった.茎状突起の前方傾斜角度の計測結果は,グループIでは67.65±5.41°,グループIIでは65.20±5.40°であった,各グループ間,男女間,'左右間に有意差はなかった.各症例で左右で10%以上の差があるものは63例(15.0%),20%以上の差があるものは7例(1.7%)で,前方角度は長さよりバラツキが少なかった.年齢と前方角度との間には相関関係を認めなかった.茎状突起の形態をストレート型,屈曲型,結節型,延長型,断裂型に分類して,出現頻度を調査したところ,ストレート型は409側(47.7%),屈曲型118側(13.8%),結節型285側(33.2%),延長型38側(4.4%)断裂型8側(0.9%)であった,グループIIにおいて結節型や延長型が多く認められた.CT三次元構築像で11例(22側)の茎状突起を観察した.CT三次元構築像は視覚的に説得力のある画像がえられ,突起の長さ,前方角度,内方角度なども計測でき,有用な診断法であった.パノラマ写真を使った計測結果との比較では,突起の長さ,前方角度に大差はなかった.しかし,パノラマ写真からは内方角度を知ることはできなかった.CT三次元構築像を得るには1.09mSvの被爆があり,これはパノラマ写真撮影の約30倍であり,茎状突起異常の有無を検索するにあたり,CT三次元構築像をルーチン検査と位置づけるには問題が多いと考えた.計測結果より,パノラマ写真において茎状突起の先端が下顎枝後縁の1/2より上後方にある場合には茎状突起に過長はないと判定し,下顎枝後縁の下1/4より下前方にある場合には明らかに過長であると判定することができると判明した.よって,パノラマ写真において茎状突起を計測せずとも,フイルムをみるだけで茎状突起の過長があるか否かを判読できることや,被曝線量から茎状突起の観察にはパノラマ写真が最も有用であり,ルーチン検査とする価値があると思われた.

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© 2002 大阪歯科学会
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