抄録
義歯装着者にとって,義歯の衛生管理は口腔の健康を保つ上で重要である.しかし,義歯を装着した高齢者の口腔ケアは,健常者でも十分ではなく,要介護者では清掃不良であることが多い.義歯の汚れであるデンチャープラークは,義歯性口内炎や口角炎など口腔疾患の原因になることが知られている.義歯の清掃方法には,デンチャーブラシなどを用いた機械的な除去法と,義歯洗浄剤を用いた化学的な除去法があるが,これらの方法では除去困難なものがある.また,軟質裏装材で裏層されている場合には使用できない義歯洗浄剤も多い.義歯以外にも,血管内留置カテーテル,尿路カテーテル,人工血管,人工心臓弁,コンタクトレンズおよび人工呼吸器などの医療器具表面にバイオフィルムが形成され,除菌を困難にして,慢性,難治性のバイオフィルム感染症を引き起こすことが知られている.本研究では,義歯表面に形成されるデンチャープラークに含まれるバイオフィルム形成細菌を,走査電子顕微鏡を用いてスクリーニングした.その結果,デンチャープラークから分離した細菌の43%がバイオフィルムを形成することがわかった.また,これらの細菌を同定した結果,亜急性心内膜炎や肺炎などの原因となる細菌種が認められた.このようなバイオフィルム形成細菌は,局所で定着して慢性,難治性のバイオフィルム感染症の原因となり,義歯装着患者に日和見感染症を引き起こす可能性が示唆された.デンチャープラークはバイオフィルムを形成しておリ,全身感染症の原因となる微生物のリザーバーになるといえる.