歯科医学
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咬合発育各期における咬合安定性のT-Scanを用いた時系列咬合力測定による評価
松﨑 悟士佐藤 正樹福本 貴宏鶴身 暁子龍田 光弘田中 順子田中 昌博
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2019 年 82 巻 1 号 p. 1-5

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抄録

これまでに咬合発育各期での咬合接触の安定性についての研究は行われてきたが,いずれも咬合接触面積あるいは接触点の分布を解析したもので,咬合力による咬合安定性の評価は行われていない.T-Scanは,咬合力の時系列測定が可能な唯一の咬合検査機器であり,咬合力バランスを定量的に解析することができる. 本研究の目的は,T-Scanによる咬頭嵌合に伴う経時的な咬合力,時間および咬合力重心の移動軌跡の変化から,咬合発育各期での咬合の安定性を評価することである.被験者は,Hellmanの咬合発育段階のIIIIB期,IIIC期,IVA期,各期8名の男児とした.計測にT-Scanを用い,座位にてフランクフルト平面が床面と平行な頭位で,下顎安静位から,できるだけ速く,強く噛むように各被験者に指示した.計測項目は4項目とし,咬頭嵌合位における咬合力の左右差および前歯部と臼歯部の差,噛み始めから咬頭嵌合位に至るまでの時間および咬合力重心の移動軌跡の距離とした.咬合力の左右差および前歯部と臼歯部の差は,咬頭嵌合位での相対咬合力の差の絶対値(%)とした.咬頭嵌合位に至るまでの時間は,最大噛みしめを100%とした際の2%から90%まで上昇するのに要した時間(s)とした.咬合力重心の移動軌跡の距離は,最大噛みしめの10%から90%における移動距離(mm)とした.統計学的解析は,咬合発育段階を要因としたKruskal-Wallis検定を行い,統計学的有意差を認めた場合,Dunn-Bonferroni検定を行った(α=0.05).咬頭嵌合位における咬合力の左右差に統計学的有意差を認め,IIIB期がIIIC期,IVA期に対して有意に高い値を示した.咬頭嵌合位における咬合力の前歯部と臼歯部の差,噛み始めから咬頭嵌合位に至るまでの時間および咬合力重心の移動軌跡の距離に有意差を認めなかった.側方歯群交換期には最大噛みしめ時の咬合力分布の左右差に偏りは見られたが,嚙みしめに伴う咬合の安定性は保たれていることが示された.

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© 2019 大阪歯科学会
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