今から, 20数年前, 当時の林野庁長官の提唱で始まった「森林浴」活動が, エコロジーの復活とともに日本各地で広がりを見せている. また最近では, メタボリック症候群の予防を目指し, ドイツをはじめとするヨーロッパ同様に森林散策やウオーキングに励む人々が増加している. 森林浴は, 森の中で清浄な空気を呼吸し, 適宜に運動を交えて心身の休息をはかる健康法といわれている. 一般に, 森林浴を行うと気分が爽快となりリラックスすることができる. 本研究では, 19名(男性11名, 女性8名)の健康高齢者を対象に, 群馬県利根郡川場村の森林, および非森林田園地帯を1時間散策し, その前後における血圧, POMS心理検査, NK細胞活性, および血中コルチゾール濃度を測定した. また併せて, 森林の大気分析を行い, 樹木から発散されるテルペン類などフィトンチッド成分を測定した. その結果, 川場村森林地帯での森林浴の前後比較にて, 血圧の有意な低下, 心理テストにおける憂うつ感の減少, 血中コルチゾールの減少が認められ, 被験者が森林浴後にリラックスすることが判明した. 川場村における森林浴研究の結果から, 心理学的, また生理学的に森林浴が癒しと健康をもたらす効果を持つ可能性が示唆された. また, この調査地, 川場村森林地帯からは, 青葉アルコールと呼ばれるキセノールが高濃度に検出されており, 近年ストレスや疲労感の軽減に役立つ物質として注目されている. 今後は, 各種感覚器に対する森林浴の作用を詳細に調査していく必要があると考えている.