2015 年 47 巻 10 号 p. 1219-1224
へパリンは血栓症の治療・予防薬として, 広く臨床で用いられている. しかし, 時にへパリンを原因とした血栓症 (へパリン起因性血小板減少症, heparin induced thrombocytopenia ; HIT) を惹起する. 症例は69歳男性. 自然気胸に対して胸腔鏡手術を施行, 軽快退院後自宅で呼吸困難感を自覚し, 当院受診. D-ダイマー高値であり, 造影CTにて肺塞栓と深部静脈血栓を認めたため入院した. 同診断のもと未分画へパリンの点滴静注を開始したところ, 投与5日で血小板が36×104/μLから28×104/μLと軽度減少した. しかし, 以後も血小板の減少は緩徐かつ軽度であった. その一方で, D-ダイマー高値は遷延した. 第11病日からへパリン点滴静注は中止し, HIT抗体を提出した. 当初は肺動脈血栓も縮小傾向であり, 4 T'S score上もHITを強く疑うものではなかったが, 第15病日再度呼吸困難感を認め, 造影CT上血栓の増大を認めた. 第11病日の時点でヘパリンの点滴静注は中止していたが, ヘパリン加生理食塩水による点滴ルートのフラッシュ (へパリンロック) は漫然と継続されていた. ヘパリンの完全中止以後D-ダイマー・血小板数ともに改善が認められ, 呼吸状態も改善した. その後造影CTでも血栓は縮小した. 本例のように血小板減少が緩徐な例も存在し, HITの存在を考慮した際にはヘパリンの中止・抗体の検索が重要である. また, へパリンを中止する際には, へパリンロックなど少量のへパリンにも注意すべきである.