心臓
Online ISSN : 2186-3016
Print ISSN : 0586-4488
ISSN-L : 0586-4488
[症例]
急性心筋炎に冠攣縮を合併した1例
白川 裕基弓削 大石井 俊輔柿﨑 良太木村 嶺東谷 浩一岡田 拓也川口 竹男阿古 潤哉
著者情報
ジャーナル フリー

2017 年 49 巻 3 号 p. 276-281

詳細
抄録

 症例は23歳,男性.2015年6月に突然の後頭部痛と動悸を主訴に救急搬送された.12誘導心電図でⅡ,Ⅲ,aVF,V4〜V6誘導でST上昇,および血液検査で心筋逸脱酵素の上昇を認めた.心臓超音波検査で後下壁と前壁に壁運動低下を認め,壁厚は前者で14 mm,後者で8 mmと不均一な壁厚を示していた.原因疾患の診断目的に施行した緊急心臓カテーテル検査では冠動脈に器質的狭窄はなかったが,冠攣縮傾向であったためアセチルコリン負荷試験を行った.前下行枝の中間部から末梢にのみ陽性所見を認め,冠攣縮の合併を疑った.また,左室心内膜心筋生検では心筋炎に特異的な所見は認めなかったが,心臓磁気共鳴画像(cardiovascular magnetic resonance;CMR)のT2強調画像で後側壁の心外膜側に高信号域,同部位に遅延造影像を認め,後側壁を中心とした急性心筋炎と診断した.本症例で認めた左室壁運動低下には2つの機序が推察され,後側壁は心筋炎,前壁の中間部から心尖部にかけては冠攣縮の影響と考えられた.冠攣縮に対してカルシウム拮抗薬の内服を開始したところ,左室前壁領域の壁運動は数日で改善し,左室後壁領域は約2カ月後にCMRにおけるT2強調画像,遅延造影像の改善とともに左室駆出率は41%から60%まで改善した.その後心電図上のST-T変化も消失し,約7カ月後に後壁の壁肥厚は改善した.急性心筋炎と冠攣縮の合併についての報告は多数あるが,急性期の心室壁厚に着眼して論じた報告はない.急性心筋炎の診断時に壁肥厚を伴わない壁運動低下を認める症例では,冠攣縮の関与を考慮し,冠攣縮治療薬の併用を検討する必要があると考えられた.

著者関連情報
© 2017 公益財団法人 日本心臓財団
前の記事 次の記事
feedback
Top