2019 年 51 巻 2 号 p. 143-151
背景:左冠動脈主幹部の急性心筋梗塞(acute myocardial infarction with left main trunk occlusion;LMT-AMI)は極めて重篤な病態であるが,その重篤さゆえに疫学的評価は十分ではない.近年,循環器疾患の重症例に対する治療や管理が大きく変遷している.本研究では,来院時に心原性ショックもしくは心停止であったLMT-AMIに対する治療成績を検討し,臨床転帰と治療変遷の関連を評価した.
対象と方法:2001年4月から2017年9月にLMT-AMIで当センターに搬送され病院到着時に心原性ショックまたは心停止の症例を対象に後ろ向きに検討した.さらに対象期間で前後半に分け比較した.
結果:症例は29例で,年齢は中央値66歳,14例が院外心停止,12例は来院時心停止で,7例で良好な転帰(cerebral performance categories 1-2かつ生存転退院)を得た.前後半の比較では,冠動脈造影は後半群で初回造影TIMI 0-1が多く,再灌流を優先する方針への変更や低体温療法の導入といった治療の変遷があった.前半群で再灌流前のpercutaneous cardiopulmonary support(PCPS)開始が多く,後半群で低体温療法施行および再灌流前の低体温療法導入が多く,来院からカテーテル検査室への時間が短かった.有意差はないものの後半群で転帰良好が約25%増加した.転帰に対する多変量解析では再灌流前のPCPS開始が転帰不良の関連因子であった.
結論:病院到着時に心原性ショックまたは心停止であったLMT-AMI症例の転帰は不良であったが,再灌流を可能な限り優先した後半群で転帰良好が多い傾向にあった.低体温療法の心筋保護作用についてもさらなる検討が必要である.