心臓
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[症例]
ショックを伴う肺高血圧症が疑われた脚気心の1例
山本 惇貴北田 修一溝口 達也横井 雅史中須賀 公亮大手 信之瀬尾 由広
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2022 年 54 巻 1 号 p. 106-112

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抄録

 脚気心では通常左室拡大と左室過収縮を特徴とした高拍出性左心不全を呈するが,稀に肺高血圧症を呈する症例の報告があり,特に急性期には肺塞栓症との鑑別が重要となる.症例は脊髄小脳変性症のため施設入所中の30歳台男性で,進行性の全身浮腫およびカテコラミン不応性低血圧のため当院入院となった.心エコー図検査では右心系の拡大と左室のD-shapeといった肺高血圧所見を認めたため急性肺血栓塞栓症を考慮した.しかし,心拍出量が正常範囲内に保たれていたことから末梢血管抵抗の低下が示唆され,脚気の関与を疑いビタミンB1の投与を開始したところ,血圧は上昇しカテコラミンからの離脱が可能となり同時に肺高血圧所見も消失した.後日行った造影コンピュータ断層撮影検査と肺血流シンチグラフィでは異常所見は認めず,ビタミンB1血中濃度が低値であったことから脚気心であったと診断した.肺高血圧症が疑われる脚気心では診断および治療に難渋することが想定され,ビタミンB1投与の遅れは重篤な転機をたどる可能性がある.またその診断過程では急性肺血栓塞栓症を始めとする肺高血圧症を呈する疾患との鑑別が問題となる.本例は急性期の心エコー図検査が脚気心の診断につながっており,血行動態を把握し鑑別診断を行うことの重要性を再確認した症例であった.

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