心臓
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症例 運動により失神発作が誘発された若年性肥大型心筋症の1例
安田 聡栗田 隆志清水 渉相原 直彦鎌倉 史郎松久 茂久雄大江 透永田 正毅下村 克朗
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1992 年 24 巻 11 号 p. 1298-1303

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抄録

若年性肥大型心筋患者には,突然死や失神発作が認められることが多いが,その原因はいまだ不明な点が多い.今回我々は,運動によって著明な血圧低下をきたし失神発作が認められた若年性肥大型心筋症の1例を経験した.症例は17歳,女性.運動時の失神発作で,心エコー,左室造影,心筋生検の結果より非閉塞性肥大型心筋症と診断された.トレッドミル運動負荷試験では心室性不整脈は誘発されなかったが,心電図上ST低下と心拍数上昇に伴い著明な血圧低下をきたし前失神状態となった.電気生理学的検査では洞機能低下と,3連発心室早期刺激により心室細動(Vf)が認められた.120/分以上の心室ペーシングで著明な左室拡張末期圧の上昇と血圧低下が生じた.本症例では,左室コンプライアンスの低下による頻拍時の左室流入障害に心筋虚血が関与して血行動態が悪化し,失神発作が生じたと考えられた.心室受攻性の亢進もあり,血行動態悪化時に二次的にVfに移行する可能性もあった.洞機能低下に対して,恒久的ペースメーカー植え込み後,ベラパミル,ジソピラミドが投与された.薬剤投与後は,心室ペーシング時の左室拡張末期圧の上昇,血圧の低下,運動負荷中の血圧の低下,心電図変化,自覚症状とも改善がみられた.本症例は若年性肥大型心筋症患者の突然死の原因の1つを示唆するものであり,ベラパミルが症状の改善に有効であった.

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