植物環境工学
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論文
試作した光質制御フィルムの分光透過特性とホウレンソウの生育に与える効果
山崎 敬亮市村 拓野村上 健二
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2022 年 34 巻 2 号 p. 85-95

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抄録

ホウレンソウの生育促進を目的に,青色光の透過を抑制して相対的に光合成有効放射に含まれる赤色光比率を高めた光質制御フィルムを試作し,2014年から2018年にかけて19回の栽培試験を実施してホウレンソウの生育への効果を検証した.試作した光質制御フィルムの分光特性は,光合成有効放射の透過率が75 %,屋外日射に比べ赤色光比率が4 %程度高く,青色光比率は3 %低かった.屋外で1年半展張しても分光透過特性に変化はなく,4年近く展張したところ,赤色光比率は約3 %多い状態を維持しており,4年を経ても分光透過特性はおおむね維持された.毎回新品のフィルムを展張してホウレンソウ栽培試験を行ったところ,紫外線カットフィルムに比べ,春季と秋季の作型を除き,品種に関わらず試作した光質制御フィルム下で新鮮重(最大48 %増),乾物重(最大37 %増)および葉面積(最大41 %増)の値が増加した.ホウレンソウの生育適温とされる15~20 ℃の栽培では,波長選択的に光を吸収するため遮光条件となる光質制御フィルムに比べ,光合成有効放射の多い慣行の紫外線カットフィルム下の生育が良くなる傾向が認められた.今回試作した光質制御フィルムは,通年で生育促進効果を維持することは難しかったが,ホウレンソウの生育適温外で栽培する際には,葉面積拡大や効率的な光合成に寄与し,乾物生産増加を伴う生育促進が可能であった.

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© 2022日本生物環境工学会
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