【症例】60歳代男性
【主訴】下痢、下肢脱力
【家族歴】父が成人T細胞白血病(ATL)でにより死亡
【現病歴】X年9月頃から慢性下痢、下肢脱力をきたし、同年11月に精査加療目的に入院となった。
【臨床経過】血液検査で低K血症、低Alb血症を認めた。便検鏡検査で原虫が確認され、PCR法でイソスポーラ症と確定診断した。腹部造影CT検査では小腸全体に液貯留を認めた。上部消化管内視鏡検査で十二指腸粘膜の著明な萎縮を認め、生検で委縮した吸収上皮内に原虫を確認した。カプセル内視鏡検査では小腸全体に委縮し、びまん性に白色絨毛が目立つ特異な像を呈し、吸収障害が示唆された。スルファメトキサゾール、トリメトプリム(TMP-SMX)製剤の経口投与では軽快せず、TMP-SMXの経静脈的投与を行ったところ軽快した。
【考察】イソスポーラ症はCystoisospora belliによる腸管感染症である。AIDSやATLなどの免疫不全者では慢性化することがあるが、本症例では免疫異常は認めなかった。父がATLで死亡しており、幼少期にキャリアーとなった可能性が考えられた。また、小腸白色絨毛は吸収障害を反映するため、本症例では吸収障害が存在し、それにより抗生剤の内服投与は無効であったと考えらた。イソスポーラ等の原虫の慢性感染例における小腸内視鏡像の報告はなく、今回のカプセル内視鏡所見は貴重であると考えられた。
【結語】非免疫不全者に発症し、カプセル内視鏡で小腸吸収障害の存在が示唆された慢性イソスポーラ感染症の一例を経験した。