2015 年 36 巻 3 号 p. 321-325
2014年に改訂された人工内耳適応基準では,小児の適応年齢は従来の 1 歳 6 カ月以上から,1 歳以上に引き下げられた。この適応基準改定の背景には,近年の研究から低年齢での人工内耳の有用性や手術の安全性が確立されたことはさることながら,新生児聴覚スクリーニングの普及も大きく貢献していると言える。
新生児聴覚スクリーニングにより早期の療育開始が可能となり,また早期に音声による言語情報が入力されることによりコミュニケーション能力が向上する確率は有意に高くなる。本邦でも2000年度よりモデル事業として新生児聴覚スクリーニングは開始され,以後全国的に拡大しているが,スクリーニング実施にはいまだ地域差が大きいのが実情であり,全例実施されている産科施設は約半数程度でしかない。新生児聴覚スクリーニングを受け,早期に精密検査,療育へと繋げられた児では,1 歳時点で難聴の程度を判断するのは困難ではなく,早期の人工内耳手術は可能である。新生児聴覚スクリーニングとその後の診断,療育体制の整備を行うことで,難聴児の音声によるコミュニケーション能力の向上を目指したい。