2007 年 28 巻 1 号 p. 36-39
Vocal cord dysfunction(VCD)は吸気時に声帯が内転し喉頭で吸気性の喘鳴をきたす疾患である. したがって,VCDの診断には喘鳴発作時の声帯運動の観察が必須であり,本疾患の診断に耳鼻咽喉科医が果たす役割は大きい. しかし本邦では,耳鼻咽喉科からのVCDに関する報告が非常に少ない. 今回我々は,非器質性のVCDと診断した2歳女児の症例を経験した. 初診時,吸気時に声帯が内転する奇異性声帯運動が観察された. 酸素飽和度の低下を伴った喘鳴が持続していたため,気道確保のために気管切開術を施行した. 気管切開から10日後に声帯運動は正常化し,気管孔を閉鎖した. 非器質性VCDは心因性の要因が大きいため,心理的・精神神経科的アプローチや音声治療が有効であると考えられる. しかし,本症例は2歳児でありそれらの施行は困難であった. 本疾患は喘息と誤診されている場合もあり,耳鼻咽喉科医にはVCDを念頭においた診療が望まれると考えられた.