2019 年 60 巻 2 号 p. 235-250
OECD PISA2003の結果とDeSeCo Projectが示したキー・コンピテンシーは,世界の初等中等教育改革に大きな影響を与え続けている。その一つが,具備すべき知識やスキル,態度を含んだ概念であるコンピテンシーをあらかじめ明示し,それに対応して学習内容を配置し,効率的・合理的な育成を目指すコンピテンス基盤型教育の導入である。欧州やオセアニア諸国は,それに大きく舵を切った。その成功例と言われるフィンランドでは,7つのコンピテンシーを設定し,すべての学年と教科でその育成を目指す教育が進められている。日本でも,資質や能力の育成が重視されるようになってきたが,まだ抽象論の域を出ていない。試案として,どのようなコンピテンスを理科教育を通して育成すべきか,医学教育をモデルに整理・検討したところ,具体的な構成要素が明らかになった。教科の内容を教えるのではなく,教科を通して児童や生徒に求めるコンピテンスを育成するという,従来とは逆の視点がコンピテンス基盤型教育には必要である。そのためには,20世紀後半に向けて児童や生徒にどのような資質や能力を具備させるべきかといった議論が今後必要であろう。