2020 年 61 巻 2 号 p. 361-371
本研究の目的は,“理科を学ぶ有用性の認識”が,“理科に対する興味”や“科学的な探究活動への意識”を媒介し,“科学的知識の理解に対する自信”に影響を及ぼすという因果モデルを仮定し,その妥当性について検討することであった。そのために,まず,草場(2011)や刀川(2013)を参考に,計30項目から成る質問紙を作成した。次に,中学校第3学年生徒36名を対象として質問紙調査を実施した。そして,得られた回答の集計データを基に,因子分析を行った結果,因子1「実験の意味理解(R)」,因子2「実験方法の検証」,因子3「実験結果の可視化」,因子4「理科を学ぶ有用性の認識」,因子5「理科に対する興味」,因子6「科学的知識の理解に対する自信」が抽出された。さらに,重回帰分析とパス解析を行った結果,因子1「実験の意味理解(R)」,因子3「実験結果の可視化」および因子5「理科に対する興味」は,それぞれ共変動の関係にあり,本因果モデルの初発の段階に位置していることが示された。これら3因子は有機的に関連しているだけでなく,1つの因子を強化すると他の因子も向上するという相互依存の可能性を示唆するものであると考えられる。併せて,これら3因子は,因子4「理科を学ぶ有用性の認識」を媒介し,因子6「科学的知識の理解に対する自信」に直接的,間接的な影響を及ぼしていることが明らかとなった。以上のことから,生徒に「科学的知識の理解に対する自信」を持たせるには,理科授業の導入段階において,「理科に対する興味」を喚起したり,「実験の意味理解(R)」と「実験結果の可視化」を重視したりするとともに,「理科を学ぶ有用性の認識」を深めさせるといった指導の可能性を裏付ける根拠と示唆を得ることができた。