2021 年 62 巻 1 号 p. 355-365
本研究では,シティズンシップ教育の視座から,科学技術に関連した社会的諸問題(SSI)を取り扱った科学教育について検討した。その結果,SSIを導入した科学教育では,科学的知識の獲得だけではなく,科学的リテラシーの育成が目指されるとともに,SSIを導入することと,「科学の本質」の理解やアーギュメンテーションを通したインフォーマル推論を行うことで,思慮深い意思決定ができる市民の育成を目指していることが明らかとなった。将来の主権者である市民を育成する観点から,本研究で得られた知見を整理し,理科におけるSSIを導入したカリキュラム開発の視点として,次の3点を導出した。(1)科学技術に加え,社会学および文化,環境,経済,倫理および道徳,政策のうちのいくつかの領域を含む問題を取り扱う。(2)科学技術が関連した地域社会における諸問題に対する情報の精査やアーギュメンテーションを通したインフォーマル推論を行うことにより,思慮深い意思決定を行う。(3)生徒を社会の構成員の一人として扱い,生徒が意思決定のプロセスにおいて,主体的に参画する機会を提供する。