2024 年 65 巻 1 号 p. 133-146
小学校理科では問題解決学習が志向されており,その最初の段階では子どもが対象と関わる中で表象を形成する。この際,対象がもつアフォーダンスを子どもが知覚することで活動が生起し,活動に応じた表象が形成されると考えられる。そこで本研究では,小学校第3学年「磁石の性質」に関する学習を事例に,子どもが対象のもつアフォーダンスを知覚し,活動が誘発される過程に焦点を当てながら,問題解決における表象が形成される実態を明らかにすることを目的とした。そこで鈴木ら(2022)が提唱する,問題解決における活動を通じた表象の形成及び変換のモデルに着目した。さらに,子どもがどのようにアフォーダンスを知覚するのかを捉えるため,分散認知の観点からモデルの拡張を図った。事例的分析の結果,子どものアフォーダンスの知覚は4つのパターンに分類された。具体的には「異極を近づけて,引き合わせる」と「同極を近づけて,退け合わせる」というアフォーダンスを知覚したパターン,「同極を近づけて,退け合わせる」と「磁石の赤色や黒色からN極・S極を判別する」というアフォーダンスを知覚したパターン,「鉄を磁石に引き合わせる」というアフォーダンスを知覚したパターン,「鉄を磁石に着けて磁化させる」というアフォーダンスを知覚したパターンの4つであり,対象によって可能となる活動である許容活動の知覚に起因することが示唆された。さらに,知覚したアフォーダンスに伴い,形成される表象が異なることが明らかとなった。