日本女性科学者の会学術誌
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国際会議ICWES11論文特集「環境保全のための科学と技術」
科学技術分野への日本女性の参入はなぜ少ないか -物理科学の場合を中心に-
桑原 雅子
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2000 年 1 巻 1 号 p. 48-52

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抄録

日本では科学技術者に占める女性のシェアは,現在もたかだか10%に過ぎない。なぜこのように女性の進出がおくれたのか,その原因を明らかにすることが,この小論の目的である。通常,遅滞の原因は,封建遺制,儒教の影響などわが国固有の歴史と文化に帰せられる。しかし,主要な理由は遠い過去にあるのではなく,第2次世界大戦後,とりわけ経済の高度成長期にあらたに形成された社会・経済システムとそのなかで強化された「科学技術は男の領域」という思想にあると著者は主張する。第2次大戦後,日本の女性労働には異なる二つのステージが存在した。第1ステージは,1950年代後半から1970年代はじめまでの重工業化社会の完成期における専業主婦化の進行であり,「男は仕事に,女は家庭に」という家族の価値が強調された。次のステージ,1970年代から80年代にかけてのハイテク産業の興隆期には既婚女性の職場進出が顕著になった。両ステージの妥協の結果が,いわゆるM字型曲磁の女性就業構造である。このようなパターンの定着は,仕事の継続が必須である女性研究者のキャリア形成にとって大きなプル要因であった。また,第2ステージは,社会における科学技術のウエイトがこれまでになく増した時代であり,80年代には「科学技術創造立国」が国是となった。そのなかで,もともと科学と科学コミュニティがもっていたマスキュリニティな性格が強化され,「科学技術に女性は不適」という神話が,若い女性を科学技術から遠ざけた。女性の高等教育進学率は―貫して増加してきたが,専攻分野の偏りは先進国のなかでもとくに著しい。ここでは,典型的な例として物理学における女性の問題,物理教育のジエンター・バイアスについて考察する。

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