日本女性科学者の会学術誌
Online ISSN : 2186-3776
Print ISSN : 1349-4449
ISSN-L : 1349-4449
総説
膵臓β細胞の新生と環境
稲田 明理
著者情報
ジャーナル フリー

2010 年 11 巻 1 号 p. 44-50

詳細
抄録

最近の研究で、一旦糖尿病を発症し、罹病期間が長期化する程、β細胞数は減少することが分かってきた。したがって、β細胞を新生・増加させ、根本的な治療へとつながる基礎研究が重要であると考えられる。本総説では、β細胞の新生と著者らの研究成果を解説する。著者らは「β細胞に新生して増殖する能力がある」ことを証明するため、成体マウスのβ細胞を高濃度のストレプトゾトシン投与によりほぼ完全に破壊した後、血糖値を正常化して、膵臓内のβ細胞の複製・新生を検討した。血糖値の正常化には、1日に2回のインスリンデテミル(持続型ヒトインスリンアナログ)注射と膵島移植を用いた。結果、インスリンデテミル注射は高血糖を効率的に改善することができ血糖管理には有効であったが、β細胞の新生や増加、膵島形態の回復は見られなかった。対照的に、膵島移植により高血糖が改善した群では、β細胞数と膵島数が増加し、膵島組織が大幅に回復していた。この膵島組織回復には新生と複製の両方が関わっていた。β細胞に対するインスリンデテミルの効果は膵島移植とは大きく異なっており、膵島移植はβ細胞の新生と複製を誘発する引き金となる可能性がある。

著者関連情報
© 2010 日本女性科学者の会
前の記事 次の記事
feedback
Top