真核生物は様々なゲノムストレスに対して複数の防御機構(チェックポイント、DNA修復、アポトーシス誘導、早期細胞老化)を持っており、これらの協調した作用によりゲノムDNAを安定に維持しながら自己複製を行っている。これらの防御機構の破綻は発がんや様々な遺伝子疾患に大きく寄与している。ストレス応答機構の分子基盤は、タンパク質分解、翻訳後修飾、タンパク質細胞内局在変化、転写調節により制御されており、クロマチン修飾は細胞増殖、分化、老化など多くの重要な生命現象に関わることが示されている。我々は①リン酸化酵素Chk1(Checkpoint kinase 1)がヒストンH3-Thr11(H3-T11)をリン酸化することにより転写制御を担うこと、②DNA損傷に反応した転写抑制機構にH3-T11の脱リン酸化が重要であることを見出し、DNA損傷に応答した転写抑制機構を発表した。この転写抑制機構は、同じく細胞増殖因子の転写が強く抑制される細胞老化の分子機構の解明に大きく貢献すると考えられる。