抄録
症例1は51歳,男性。30年間の喫煙歴がある。3年前から冬季に両手指の疼痛を繰り返し,近医で加療されるも改善せず当院を受診した。CT angiography で特徴的所見を認め,Buerger 病と診断した。血管拡張薬などの薬物療法には抵抗性であったが,星状神経節ブロックにより改善傾向となり,脊髄刺激療法に移行して寛解状態を維持できた。症例2は71歳,女性。受動喫煙を含め喫煙歴はなく, 2年前から深部静脈血栓症に対してリバーロキサバンを内服中であった。2ヶ月前から右母指,示指,中指の色調不良と疼痛が出現し来院した。抗リン脂質抗体症候群が背景にあると思われたが確定診断には至らず,「非動脈硬化性の慢性動脈閉塞症」と診断した。硬膜下血腫発症のため抗血栓療法は中止せざるを得ず,症例1同様,星状神経節ブロック後の脊髄刺激療法により寛解状態を維持できた。慢性動脈閉塞症は,閉塞性動脈硬化症と糖尿病性足病変がその大部分を占め,その他の非動脈硬化性疾患を診療する機会は比較的少ない。Buerger 病をはじめとするこれらは治療選択肢が限られる,難治性,再発性であるなどの理由により治療に難渋することが多い。脊髄刺激療法は比較的新しい治療法であり,間接的に交感神経の緊張を緩和することで持続的な微小循環の改善作用を有するとされる。交感神経節切除や焼灼術に比べると低侵襲であり,可逆的であるため,薬物療法に抵抗性の虚血性四肢病変では治療選択肢の一つとして有用である。(皮膚の科学,24 : 1-8, 2025)