2010 年 9 巻 5 号 p. 465-468
76歳,女性。2009年8月に左乳頭を強打後に同部が腫大し,硬結と疼痛が出現した。9月に近医で施行されたマンモグラフィでは異常所見はなかった。近医で肥厚性瘢痕の治療を行ったが軽快せず,当科を紹介され受診した。初診時,左乳頭は暗褐色調に腫大し硬結を触れたが,びらんや分泌物は認めなかった。皮膚生検にて腺癌であり,乳房超音波で乳頭直下に 6×6×4mm 大の不整形低エコーの腫瘤を認めた。造影 CT にて同部位に濃染結節がみられたほかは,遠隔転移などは認められなかった。乳頭に限局した原発性乳癌と診断し,胸筋温存乳房切除術を施行した。全摘時の病理所見では浸潤性乳管癌で,乳頭腺管癌の所見であった。乳頭部原発の乳管癌は稀であり,本邦では現在までに19例が報告されているのみである。