Studies in Language Sciences
Online ISSN : 2435-9955
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多言語社会ブータン王国における複言語話者の母語認識
佐藤 美奈子
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ジャーナル オープンアクセス

2021 年 19 巻 p. 85-92

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抄録

本研究は、多言語社会ブータンにおける複言語話者の言語認識と、母語を定義の過程を明らかにすることを目的とする。複数の母語定義基準を提唱するSkutnabb-Kangas(1981)と、関係言語の相対的地位から言語の「優位性」の概念を提唱するWeinreich(1976)の見解を融合した「総体的な母語認識」という概念を提唱し、自身にとって核となる言語を「総体的な母語認識」として定義する。学校関係者612人を対象として母語認識調査をおこなった結果、ブータンの複言語話者の母語認識には、現在の能力や使用頻度を基準に自身の母語を定義する現実主義的傾向と、国家アイデンティティの核とされる国語を個人としても自身の母語とする国家主義的傾向、出身民族の言語を自身の母語とするルーツ志向があることが明らかになった。個人が複数の基準から何を選択し、それに基づきどの言語を自身の核として据えるかには、その個人の自己規定の仕方が反映される。母語認識とは、すなわち自己認識である。

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© 2020 言語科学会
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