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論文
大卒女性における専攻間賃金格差の分析
――理工系出身女性の賃金抑制要因に注目して――
山本 耕平安井 大輔
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2016 年 61 巻 1 号 p. 63-81

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抄録

本稿では、女性の大卒者において、理工系出身者の収入が文系出身者にくらべて低いことを問題とし、専攻間賃金格差がどこで生じているのかを、二〇〇五年社会階層と社会移動全国調査(SSM調査)のデータから明らかにした。まず、労働行列(Labor Queue)モデルによる議論にもとづいて、理工系出身の女性は人的資本にマッチした専門職につきにくく、またその人的資本が雇用者によって特殊的とみなされやすいために、非専門職において文系出身の女性よりも不利な立場に立たされる、という仮説を立てた。そして、女性大卒者サンプルの賃金を被説明変数とし、文系・理工系の区別と職種や雇用形態など職業に関する変数をおもな説明変数として、Heckmanの二段階推定によって分析をおこなった。分析結果は仮説を支持しており、(1)理工系と文系の賃金格差は非専門職においてとくに大きいこと、(2)専門職ではその格差は縮小するものの、僅かな格差が残ることが確認された。また、(3)失業回数が賃金を押し下げる効果は理工系においてとくに強いこと、および、(4)人的資本に関わらない変数は文系と理工系の格差を説明しないこと、によって労働行列モデルの前提となる人的資本論の妥当性を確認した。以上の結果から、雇用にジェンダー格差があるという文系・理工系共通の要因と、男性が相対的に多いという理工系の要因によって、人的資本にマッチした専門職につけない女性が多く(また、専門職についても男性との賃金差が大きく)、結果として非専門職についた場合には、文系出身者の一般的人的資本との競合に晒されることによって、理工系女性が大きな損失を被ることになっている、と論じた。

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