社会政策
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オーラルヒストリーによる労働研究への貢献 : 希望学釜石製鐵所調査を中心に(<小特集1>オーラルヒストリーによる労働史の可能性)
青木 宏之
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2012 年 4 巻 1 号 p. 43-57

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抄録

本稿は,希望学釜石製鐵所調査の検討を通じて,オーラルヒストリーの労働研究への貢献を具体的に明らかにした。技術者や労政・労働組合関係者へのオーラルでは,企業の管理制度の運用実態,技術開発のプロセス,経営合理化をめぐる組織内力学,組織文化,さらにそれらと関わる従業員の意識を明らかにすることができた。新日鉄には製鉄所間の競争メカニズムがあり,釜石製鐵所の経営合理化の局面においては,それは組織の存続を求める行動へと結びついた。また,釜石における従業員と地域社会との密接な関係は,製鉄所単位の利害意識を強めていた。こうした従業員の意識と行動が戦後の釜石製鐵所の経営合理化に影響を与えていた。以上の研究成果を踏まえて,オーラルヒストリーが制度や組織を形成する背景的要因を解明できるというメリットを持つこと,さらに,そうした帰納的分析を通じて制度や組織のダイナミズムを明らかにする可能性が広がることなどを指摘した。

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© 2012 社会政策学会
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