社会政策学会における生活の論じられ方はいくつかの節目を経験してきた。1980年代までは,不十分な生活状態を指摘する論じ方が主流であった。しかし1990年代に入ると,生活保障の展開によって生活の個人化が進み,個人化にともなう生活課題が論じられるようになった。この議論を主導したのが故西村会員であった。21世紀初めまでの論じ方に共通していたのは,マクロの社会状況から生活の状態や課題を論じる手法であった。けれども最近になると,生活課題を当事者の問題状況に即して解決する手法が,猪飼会員によって提起されている。本稿では,故西村会員と猪飼会員の問題提起を,マクロの生活論とミクロの生活論として整理し,両者の意義と関係を明らかにする。その上で,今日の関心が生活変動から生活関係に移りつつあること,生活に関する社会政策が,生活保障と生活支援から構成されることを示したい。