抄録
地域開発計画策定と実施に関する諸問題のうちから,
1) 開発対象地域の自然的並びに文化的特性
2) 開発計画の発想とその背景
3) 開発推進主体とその指導者
4) 当該開発計画と地元公共団体・住民の関係
5) 開発の成果
を取り上げ,アメリカ,日本,並びに旧王制の下でのイランの実例につき具体的に検討した。多目的ダム及び総合開発の嚆矢といわれるTVA計画は,ニューディール並びに第二次大戦の時流にのり,その他の好条件にも恵まれ,地域開発史上数少い成功(当初目的達成)例の一つに数えられる。一方,むつ小川原開発計画では,高度成長期につくられた陸奥湾,小川原湖及び下北半島ほぼ全体をカバーする大規模工業開発構想が,地域内外に於ける諸条件の急激な変化により,数次にわたり大巾縮少・変更を余儀なくされた。又イランの場合は,絶対君主制の下,専ら石油収入の増大に頼って,天下り式に決定された膨大な全国的及び地域的開発計画が,インフレ,セクター間・地域間の格差増大,政治行政の腐敗促進など,様々な歪みを生じ,王制の瓦解と共に,文字通り白紙還元を強いられ,発展途上国開発の問題を浮彫りにしている。
本稿は,以上の検討から,実務上とかく陥入りがちな単なる資金投入即開発効果の思考を排し,地域開発計画成功の条件として,
1) 開発計画実施に適した時機の選択
2) 地域特性,就中歴史的・文化的特徴の理解
3) 一元的な権限と責任をもつ開発主体と,有能且つ献身的な指導者
4) コスト意識の徹底
5) 地域エゴイズムに偏しない地元の自主性と協力体制
をあげ,特に1)及び2)を重視する。
更に,上記二条件を整える為の方法として,
1) 開発構想芽生の段階からの理論家(諸学者・専門家)と実際家(政治家・財界人・官僚・現地代表等)による,ガラス張りの徹底した意見交換,並びにあらゆる角度からの調査研究の実施
2) 計画策定並びに実施段階に於ける実質的な権限の地方分散と,それに対応し,現地における各分野での近代的・合理的センスを持った人材育成の必要を強調するものである