現代社会学理論研究
Online ISSN : 2434-9097
Print ISSN : 1881-7467
「社会的なもの」としての再生産労働
介護保険制度を中心に
兪 羅珠
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ジャーナル オープンアクセス

2020 年 14 巻 p. 45-56

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抄録

介護保険制度は、官民パートナーシップにより再生産労働を社会的サービスとして提供する制度である。社会的サービスは政府の財政で事業者がサービスを提供し、利用者がそれを購入する形式の福祉制度であり、私的領域で行われた再生産労働が公的領域に移った変化である。この変化はおよそ19世紀にさかのぼる。19世紀には「出生率、死亡率、平均寿命といった人口現象をめぐり、制度・技術・知識が結合したもの」である「社会的なもの」が形成され、福祉制度が成立した。生命の再生産にかかわる諸過程である再生産労働はこの時期から「社会的なもの」になり、福祉制度に入ることで公的関心の対象になった。本稿では、こうした背景を踏まえた上で日本の介護保険制度が提起する論点を考察する。介護保険制度における労働者と利用者の両方に焦点を当て、第一に、女性移住労働者が高齢者ケアを賃労働で担うことを果たして女性の公的領域への「進出」として見なせるかを考察する。19世紀においても現在においても「社会的なもの」である福祉制度は、再生産労働を公的なものとして可視化したが、相変わらず女性の労働である点でジェンダーと結びついている。第二に、国民年金制度には国籍条件があるが、介護保険制度には国籍条件が緩和されているため、日本国籍を持たない人々も介護サービスが利用できる。一部の在日朝鮮人も国民年金制度の対象にはならないが、介護保険制度の対象にはなる。国民年金制度が主権の作用する制度であり、介護保険制度が生権力の作用する制度であるとするなら、生権力は主権が排除した「非国民」を「人口」として包摂する。本稿は、こうした二つの考察を通して今後、再生産労働を再構築することに貢献することを目的とする。

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© 2020 日本社会学理論学会
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