2019 年 63 巻 2 号 p. 38-53
木曾川中流域(岐阜県八百津町〜愛知県犬山市)の天然製氷施設の分布,製法や生産量,及び天然氷製造の衰退要因について,文献資料調査と現地観測に基づき報告する。対象の地域では,木曾川左岸沿いの,南からの日射を遮る山が川に迫る地形に製氷施設は集中していた。また,製氷施設附近には,例外なく川湊があり,氷の移出に舟運の便が不可欠であったことが窺える。製氷施設には,斜面に製氷池を設ける方式と,河川敷を製氷池として利用する方式があり,前者では池の跡の石積みが現在も残っている。生産効率はいずれも著しく悪く,一冬で池の面積100m2当り3〜5トン程度と推定された。この地域の天然製氷の記録は,一部の地域を例外として,1920年以降途絶える。製氷事業の衰退は,機械氷との価格競争に対抗できなかった可能性が大きく,1900年代初頭の一時的な温暖化の影響は小さいと考えられる。