2011 年 26 巻 4 号 p. 517-523
症例は75歳女性.2002年に右腎細胞癌に対して右腎摘出術を施行し,その後左腎転移に対し左腎部分切除術,甲状腺転移に対して甲状腺亜全摘術が施行された.2008年に近医で多発膵転移を指摘され当院紹介となった.腹部CTでは膵全体にわたり大きさ5~45mm大の転移巣を多数認めたが,膵外には明らかな転移巣を認めなかった.転移巣は膵全摘術にて全て切除可能と判断し同術式を施行した.切除標本の肉眼所見では膵全体に計17個の病変を認め,病理組織学的所見から病変は全て腎細胞癌の膵転移と診断された.術後14カ月目に甲状腺に再再発をきたし残葉切除を施行,術後24カ月現在,他に再発なく元気に外来通院中である.腎細胞癌の膵転移は根治切除が可能であれば長期予後が期待できる.自験例のような多発例に対しては膵全摘も有用な選択肢の一つであると考えられた.