2020 年 35 巻 4 号 p. 361-369
症例は43歳女性.4年前に左腋窩の滑膜肉腫が発生し他院で切除されている.膵頭部に腫瘍性病変が発見され精査目的で来院した.血液生化学検査や腫瘍マーカーは陰性であった.CT上,膵頭部に直径4.5cmの境界明瞭な嚢胞変性を伴う腫瘍性病変を認め膵実質より高い増強効果を示した.主膵管の拡張や膵実質の萎縮は認めなかった.MRIでは強い拡散制限を認め細胞密度の高い腫瘍であった.上部内視鏡では十二指腸下行脚の内側から腹側にかけて粘膜下隆起様の所見を認めた.ERPでは乳頭に近い主膵管での二次分岐の描出は不良で同部位の主膵管は腫瘍による左下方への圧排を伴っていた.滑膜肉腫の膵転移を疑い,幽門輪温存膵頭十二指腸切除,D1リンパ節廓清を施行した.術中迅速病理で滑膜肉腫の転移と診断された.術後補助化学療法を施行し83ヶ月の無再発生存中である.滑膜肉腫の膵転移はまれで他に転移がなければ,膵切除は良い適応である.画像所見は多彩で嚢胞変性や石灰化,出血を呈する場合が多い.